2022年のノーベル医学生理学賞を受賞した研究テーマは、「絶滅したヒト族のゲノム解析と人類進化の解明における功績」でした。太古の時代に生きた人々の人骨からDNAを抽出して分析し、現代の人類へとつながる歴史を解き明かした研究成果が評価されたのです。
「我々はどこからきたのか」というのは人類が常に探求し続けてきた根源的な問いの一つだと思うのですが、本書では従来から唱えられてきたアフリカ起源説がDNAの分析により裏付けられたこと、さらにアフリカで誕生したホモ・サピエンスがその後どのように世界各地へと進出していったのかを、最新のDNA分析の結果に基づいて解説しています。
ノーベル賞の受賞研究でも明らかにされたように、ホモ・サピエンスは居住地を拡大する途上で並行して存在した別のホモ属(広義のヒト)であるネアンデルタール人やデニソワ人とも混血しており、我々の遺伝子うちの数%は彼らに由来するものであることが分かっています。これまでは「別な種」と見なされていた古代人と我々は、実は深いつながりを持っていたのです。
さらに、現在全世界に暮らすホモ・サピエンスのルーツをたどれば、すべてアフリカに行きつくことは確かであり、そのことを考えれば「人種」や「民族」といった区分は人類史の中のごくわずかな時間で生じた差異に名前を付けているに過ぎないことがわかります。初期のヨーロッパ人は、肌の色は褐色だったのです。
人類が成し遂げた「グレートジャーニー」の足跡を、科学的な研究成果を基にたどっていく内容となっており、非常にワクワクしながら一気に読み進めることができました。我々の遠い祖先は、こんなにも波乱に満ちた歴史を作り上げながら、今の時代へと命をつなぎ続けてきたのだと思うのととても感慨深いものがありました。