書評 「宇宙は数式でできている」

 佐藤文隆先生や池内了先生が研究の一線からは退かれたいま、須藤先生は積極的な発信を続ける現役の研究者の筆頭格といえるのではないかと思います。本書はその須藤先生の専門分野である宇宙論を題材にした読み物です。

 この宇宙は物理法則によって支配されていますが、その物理法則は不思議なほどにシンプル、そして人によっては「美しい」とさえ言われるような簡潔な数式で記述されています。これほどまでに多様で複雑な様相を見せる宇宙を記述する数式が、なぜ驚くほどに簡潔な形をしているのか。これまでも多くの科学書で取り上げられてきたテーマではありますが、須藤先生は本書においてこれらの数式は「初めから宇宙に埋め込まれたものであり、人類はそれを”発掘”しているに過ぎない」と述べています。

 もちろん、宇宙空間のどこかに数式が書き込まれているという訳ではないですが、この宇宙は我々が数式として目にする物理法則を誕生したその時から内包しており、それらを人類の目に見える形に表したときに簡潔な姿をしているのは当然の帰結だと主張されています。

 もはや卵と鶏の議論に近く科学というよりは哲学的な思索の世界になってはいる印象ですが、人類が物理法則を表す数式を編み出しているのではなく、宇宙誕生の時に刻み込まれた記録を掘り起こしているのだという主張は、大きな視点の転換を促すものであり相応に納得できるものでもありました。

「宇宙は数式でできている」 朝日新聞出版